姑獲鳥の夏:京極夏彦

非常に楽しい。
印象をひとことで言えば、夏目漱石の書いたラノベ夏目漱石は別にあの頃の作家なら森鴎外だろうが芥川龍之介だろうが誰でも可。俺が夏目漱石くらいしかまともに読んでないってだけで、要するに文体の問題だから。俺の読書経験不足が全ての元凶。なんか哀しいなぁ。ラノベというのも少し違って、やっぱり大まかな部分でラノベの様式に則ってはいない。例えば、これがラノベなら、語り手・関口をもっと読者の共感しやすい年齢に設定するだろう。高校生だと話の展開がちょっときついから、大学生くらいかな。で、京極堂の妹をメインヒロインに据え、二人の首を事件に突っ込ませる。それを傍目から苦々しく思っている京極堂。という構図になるかな。HAHAHA!それじゃ平井骸惚じゃないか! パクリというよりは、「俺ならこーする」というレベルだろうけど。
ストーリーは、民俗学的なミステリ(っつかホラー)と心理学的なミステリ(っつかホラー)が非常にバランスよく交じり合っていて、こういうのが大好きな俺にはたまりませんでした。トリックなんぞ犬に食わせておけばいいから、事件の背景にある鳥肌が立つような薄黒いモノを楽しみたいですよね。
やはり最高なのは関口君。よく登場するような、精神の一部が変調・欠落していて、それを自覚し、故に達観しているような斜に構えているようなキャラクターとは、関口君は違う。ここまでヘタレた精神異常者なんて最高ですよ。非常に魅力的。もうぞっこんラブ。惜しむらくは、話の構成上、次巻以降はもうこれ以上の精神異常を期待できないところか。いまんとこ、「絡新婦」を除けば、次巻以降を読む予定はないけれど。
そして、久遠寺涼子さん。ミステリアスでサイケデリックな美女。最高っすね。異常者同士、関口君と仲良くやっていれば、とても楽しかっただろうになぁ。惜しい人を。
「蛙の顔をした赤ん坊」って、ブラックジャックを思い出した。
さて、つぎは「絡新婦の理」だ。歯ごたえありそうだなぁ。