とある飛空士への追憶:犬村小六

すごく良かった。
「次期皇妃を水上偵察機の後席に乗せ、中央海を単機敵中翔破せよ」というアオリだけで、これがどういう作品かはだいたい想像できるんじゃないかと思う。そしてその期待通りの物語を、この作品は予想以上に見事に書き切っている。いわゆるひとつの王道というやつ。あっと驚くような展開はほとんどなく、またその必要もない。二人きりで飛ぶ空、静かに語り合う夜、緊迫感あふれる空中戦、海辺で楽しく遊ぶ二人、そして別れ。それらが順を追って丁寧に展開されていく。
特にラストシーンの美しさが印象的で、その余韻を残すように物語がフェードアウトしていくのも良かった。あそこから盛大なハッピーエンドにされると、まぁ違和感ありまくりだしな。
ともあれ、まるでハリウッド製作のラブロマンス映画のような話でございました。というか終章で描かれている状況を考えると、(作中世界の)ハリウッドはものすごい勢いで映画化をオファーしてるんだろうな。