とある飛空士への恋歌:犬村小六

とある飛空士への追憶』の続編と聞いたときは「ぶっちゃけありえない」と思ったもんだが、どうやら『恋歌』は題名が同じだけの完全新作と考えた方がよさそうだ。『追憶』は第二次世界大戦あたりの雰囲気だったけど、今回は基本設定こそ似通っているものの、フランス革命っぽい感じのエピソードあり、謎の力で空に浮かぶ島とかありで、かなりファンタジー度が上がってる。また、シリーズ化前提で話が作られているようで、いまだ主人公とヒロインが出会っただけという超スローペース。この1巻ではページの大半が主人公のカルエルくんの紹介に費やされている。
で、その主人公というのがマザコン+シスコン+王子様というトリプル甘やかされ属性を装備した最高のヘタレなのである。幼い頃は皇妃や取り巻きの貴族たちに大切にされ、革命が起こっても親切なおっさんに拾われて優しい姉妹に可愛がられる。巧みに迫害をくぐりぬけるその手腕、いかなる時にもぬるま湯に浸かり続けるこの才能は驚異的である。ナルシストで自信過剰、世間知らずで突発的なトラブルに弱く、ははうえを馬鹿にされないと力を発揮しない。おそらく妹のツッコミという名のフォローがなければ10秒で社会的に抹殺されると思われる。あまりにも素敵だ。
でもって、ヒロインなんだけど、これは消極的すぎてつまらないなぁ。といっても少し出てきただけなんだけど。このヒロインだと、何か頓珍漢なこと言って明後日な方向に突き進む主人公をキラキラした瞳で見つめながら「カルエルくんって何でも出来て凄い!」とか言ってひたすら後を追っかけるような感じにしかならないような気がする。『恋歌』のモチーフが「ロミオとジュリエット」ということから考えても、数ある選択肢の中からわざわざ最悪のものを選んでひたすら不幸へ突き進んでしまうカップルになるしかないのでは。
次巻以降はどうなるだろう。ヒロインが主人公並に面白くなるかどうかと、妹の嫉妬がいかに発揮されるかに懸かっているのではないかと思う。あるいは丸ごと一冊使ってヒロインの紹介をするのかもしれないがそれはそれで。