クロノ×セクス×コンプレックス:壁井ユカコ

イムループ(クロノ)と性転換(セクス)の複合(コンプレックス)。ファンタジー学園物をベースに、性転換の素晴らしさと、女子グループの対立の陰湿さと、タイムループの面白さを盛り込んだ、なかなか欲張りな作品。
主人公の三村くんは、謎の手紙をもらったことをきっかけに異世界に迷いこみ、あれよあれよというまに魔法学校に入学してしまう。作者が「ドキドキワクワク感を意識した」と書いているとおり、『ハリーポッター』を思わせる児童ファンタジー展開だが、例の眼鏡少年と違うのは、三村が魔法の世界へ入るときに美少女の身体になってしまうことだ。そこから先は一転して少女小説の世界。三村は、ある事情から「気だるげでどこか陰のある王子様」という役を演じることになり、見事に女子生徒たちのアイドルとなる…。性転換物には不可欠なナルシスティックな要素が存分に盛り込まれていて、期待以上の素晴らしさだ。
キャラでは(三村はダントツとして)ニコがいいなぁ。情に溺れてしまう策士というのがツボ。正ヒロインのオリンピアは「同性から嫌われるキャラ」という感じが強く出ていて、物語的にはナイスキャラなんだけど、ヒロインとしてはいまいちという感じ。いや、基本的に女子目線の話なので、オリンピアが嫌なキャラに見えるのは正解だと思うけど。
惜しむらくは、「学園生活-性転換」パートと「魔法-タイムループ」パートの関連がいまいちで、物語が二つに分裂しているように感じられることかな。特に司書なんかは、「恋愛対象にもならない男性」「三村の性転換のことを知っている」「幼馴染万歳」というあたりが、学園パートの邪魔になっているとしか思えないんだけど、まあシリーズ物だし今後の活躍に期待ということで。思わせぶりに露骨な伏線を口にしてるしな、司書の奴。
さて。性転換物なのに女子しか出てこない、目黒の秋刀魚のようにもったいない作品が多い中で、なんとこの作品にはちゃんと男子生徒が登場している。今回の三村は女子生徒たちを魅了したが、二巻では男子生徒たちを素敵に誘惑してもらいたいものだ。あとがきによると「次巻では男子生徒にもスポットが当たる」らしいしな。楽しみだ。