狼と香辛料IX 対立の町:支倉凍砂

とても面白かったと思う。今回の見所はなんといってもエーブさん大活躍のあたり。彼女は脇役でありながら、メインヒロインを凌駕する存在感を発揮し、最後まで物語の中心に居座り続けた。まさにサブヒロインの鑑だといえる。しかし決してホロの影が薄いとは思わなかった。要所でロレンスを励まし、その背中を押していたのはホロだった。それでも読者が「ホロの見せ場が少ない」という印象を受けたのなら、それはエーブがあまりに魅力的すぎたからだろう。エーブ万歳。
だけど、ロレンスはとことんホロのほうしか見ていない。ロレンスがエーブを助けたのは、エーブが助けるべきお姫さまだったからではなく、ホロにいいところを見せたかったからなわけで。しかも、ロレンスがホロの尻に敷かれているのは、ホロにベタ惚れだからではなく、単に甲斐性がないからだったりする。なんだかエーブが独り相撲をとっているみたいで、やたら切ない。
ロレンスが智慧と勇気に溢れてさえいれば、話を聞いた時点でエーブに味方することに決めたかもしれないし、ホロに発破をかけられずとも率先して動いたかもしれないし、ホロを捨ててエーブに乗り換えたかもしれないし、こんなことになる前にホロと大人の情事を済ませていたかもしれない。要するに、ぜんぶロレンスが悪いのだ。
最後のアレは、口内の匂いを嗅ぎ取ったのかと思ったら、少し前のページで頬に貼り付いてたのね。残念。