どろぼうの名人:中里十

濃厚な百合。姉の頼みで古本屋店主の妹になった少女の話。と書くと意味分からんな。
フルスイング百合小説、というか、軟投派投手の巧みな配球を見ているみたい。一見するとシンプル、裏はちょいインテリって感じ。背景に膨大な設定を用意しつつ、一部分だけを切り取って見せる。聞くところによると同人誌の設定が入っているそうで。千葉国とかっていうのはこれかな。この不思議な用語に加えて、あちこちで童話が引用されたりして、幻想的というか、ふわふわした雰囲気が形成されている、と思う。
このヒロインはいいなぁ。やはり百合物の主人公はタラシがいい。中学生にして周囲の美女・美少女を自然と惹きつける魔性。半分計算で半分天然で行動を決定する小賢しさ。素敵。あとはまあ、川井母の心情描写が少ないのと(川井娘はあんなにわかりやすいのに)、地の文の口調(というか文体)が一定じゃないのが気になったかな。後者はなにか叙述トリック的なあれかと思ったけど別にそんなことはなかったぜ。
この人なら良質の百合作品を作り続けてくれそう。期待。