ゆらゆらと揺れる海の彼方10:近藤信義

電撃冬の戦記ファンタジー祭り第三弾。いや相変わらず面白かった。不満がないわけでもないというか、粗を探せばきりがないくらいなんだけど、それでも「面白かった」と思える作品。しかし、読んでいるあいだはそうでもなかったけど、読み終わったあとじわじわとシグルドへの怒りが湧いてくるなぁ。シグルドがいったい何をしただろう。何もしてないじゃん。ヴァレーリア様が死んで危機に陥ったゼルツタール公軍をぼーっと眺めてただけじゃん。やり方は上手くなかったとはいえギュンターのほうがよっぽど頑張ってる。でもギュンターは否定されてばっかり。かわいそうすぎる。
勇猛果敢でリーダーシップがあるギュンターは、だけど物語からは「シグルドに勝てない凡人」でいることを要請されている。一方のシグルドも、実際には優柔不断でまったく主体的でないキャラだけど、作中では「全能の英雄」だ。「物語的にはこのキャラはこうでなければならない」というのと、設定上のキャラクター像とが乖離して、個性が殺されてしまう。むしろ物語的に制約のない脇役のほうが生き生きとして見える。面白いなぁ。
ヴァレーリア様亡き後の七皇戦争は消化戦に。ヴァルネミュンデ公軍もゼッキンゲン公軍も名のある武将は2人だけという悲惨な状況で、天才シグルド様に決戦を挑むことになる。テオもエーリッヒもいいキャラしてたんだけどなぁ。ギュンターなんてシグルド様の足を引っ張る役回りで、本当にかわいそうなんだけど、まあそうでもないとシグルド様が速攻で完勝してしまうので仕方ないですよね。最後には皇国を統一したゼルツタール公軍を敵に回してゲリラ戦だけで打倒 → 主家乗っ取りという無敵っぷり。さすがシグルド様だぜぇーっ!!! …くそう、ヴァレーリア様さえ健在ならこんなことには…!
というわけで七皇戦争編は駆け足気味に終了。いよいよ本編復帰か。ってどんな話だったか忘れちゃったけど。七皇戦争編は超楽しかったので、本編でもその面白さを維持してほしいなぁ。